陽之木くんは、いつもそうだ。
 私はメッセージ画面を親指で撫でた。
 陽之木くんはどうして卒業式のあとあけといてって言ったんだろう。

 そこで、新しいメッセージが届いた。

「!」

 表示された差出人の〝陽之木翔〟という文字に体を固くする。
 ゴクンと息を吞んでから、意を決してメッセージ画面を開く。

【798.3マ】

「……なにこれ」

 画面に表示された規則性のないバグのような数字列に、気味が悪くて思わず声をもらした。
 ハッと立ち上がって周りを見渡す。 やっぱり誰かがどこかで隠れて見ていて、私の反応をおもしろがって送ってるのかもしれない。

「誰か、いるんですか?」

 返ってくるのは、静寂。
 私はスマホを机の上に置き去りにして図書室の中をもう一度歩き出した。

「誰ですか? どうやって陽之木くんのアカウントに入ったんですか? こんなことして楽しいですか?」

 悔しくて、悲しくて、どうしようもなく気持ちが昂ってくる。

「っ、私に恨みでもあるんですか、どうして出てこないんですか、ねぇ、どうして、」

 息が苦しい。 視界がブレる。
 やり場のない気持ちが手の中にたまっていってギリギリと爪が食い込んでいく。

 どうして、どうして、どうしてどうしてどうして……

 私の中で蓋をしていた複雑な感情が破裂しそうになった、その時だった。
 図書室の出入り口の引き戸が穏やかに開いた。

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