陽之木くんは、いつもそうだ。
「あら、茅野さん? いらっしゃい」
それはあまりにも呑気な声だった。
「……村山さん」
この図書室の司書・村山さんが、たくさんの本を抱えてそこに立っていた。 トレードマークの優しい笑顔が、泣きそうになっている私に気付いてひどく心配そうな顔に変わる。
「どうしたの? なにかあった?」
冷たく静まりかえっていた図書室が、村山さんが持つ明るくて優しい空気に変わっていく。 それは、悪夢から目が覚めたような感覚だった。
「いえ……なんでもないです」
「そう。 ならいいのよ」
村山さんは勿論、私がなんでもなくないことはわかっているはず。 だけど知らぬふりをしてくれている。 そういう人なのだ。 そういう村山さんがいたから、私はここに入り浸っていたのだと改めて思う。
「今日はひとりー?」
村山さんがカウンターに入って作業しながら、私の気を紛らわそうとしてくれてるのか、優しい声音で話しかけてくれる。
「……はい」
「彼、忙しそうだものねー」
村山さんの口ぶりからして、こないだ事故で死んだ男の子が私とよく一緒にいた男の子だとは知らないみたいだ。
好都合だ。 気を遣われるのも、なぜ平然としていられるのって目で見られることにも疲れていたから。
「茅野さんも今日で卒業ね。 おめでとう」
とてもじゃないけどおめでたい気分ではなくて、私は俯いたまま「ありがとうございます」と呟いた。
「三年間、よく使ってくれてたわよね。 寂しくなるわ。 もしよかったら大学生になってもまた遊びに来てね!」
村山さんの優しい手が私の頭にポンと置かれて、顔をあげた。
なんて暖かい笑顔だろう。 ここ最近浴びてきた色んな冷たさが、村山さんの優しさで少しずつ温められていくような気がした。
「ありがとうございます」
三年間、居場所をくれたこと。 村山さんには感謝してもしきれない。
「……あ、もしかして本探してる?」
「え?」
「これ、分類番号でしょう」
村山さんは、私が先ほど置き去りにしたスマホのメッセージ画面を指さして言った。
「分類番号……?」
「ええ。 本の背表紙の、タイトル下に番号が振られてるでしょう。 それを分類番号って言うのよ」
「……!」
それはあまりにも呑気な声だった。
「……村山さん」
この図書室の司書・村山さんが、たくさんの本を抱えてそこに立っていた。 トレードマークの優しい笑顔が、泣きそうになっている私に気付いてひどく心配そうな顔に変わる。
「どうしたの? なにかあった?」
冷たく静まりかえっていた図書室が、村山さんが持つ明るくて優しい空気に変わっていく。 それは、悪夢から目が覚めたような感覚だった。
「いえ……なんでもないです」
「そう。 ならいいのよ」
村山さんは勿論、私がなんでもなくないことはわかっているはず。 だけど知らぬふりをしてくれている。 そういう人なのだ。 そういう村山さんがいたから、私はここに入り浸っていたのだと改めて思う。
「今日はひとりー?」
村山さんがカウンターに入って作業しながら、私の気を紛らわそうとしてくれてるのか、優しい声音で話しかけてくれる。
「……はい」
「彼、忙しそうだものねー」
村山さんの口ぶりからして、こないだ事故で死んだ男の子が私とよく一緒にいた男の子だとは知らないみたいだ。
好都合だ。 気を遣われるのも、なぜ平然としていられるのって目で見られることにも疲れていたから。
「茅野さんも今日で卒業ね。 おめでとう」
とてもじゃないけどおめでたい気分ではなくて、私は俯いたまま「ありがとうございます」と呟いた。
「三年間、よく使ってくれてたわよね。 寂しくなるわ。 もしよかったら大学生になってもまた遊びに来てね!」
村山さんの優しい手が私の頭にポンと置かれて、顔をあげた。
なんて暖かい笑顔だろう。 ここ最近浴びてきた色んな冷たさが、村山さんの優しさで少しずつ温められていくような気がした。
「ありがとうございます」
三年間、居場所をくれたこと。 村山さんには感謝してもしきれない。
「……あ、もしかして本探してる?」
「え?」
「これ、分類番号でしょう」
村山さんは、私が先ほど置き去りにしたスマホのメッセージ画面を指さして言った。
「分類番号……?」
「ええ。 本の背表紙の、タイトル下に番号が振られてるでしょう。 それを分類番号って言うのよ」
「……!」