陽之木くんは、いつもそうだ。
 それは、二年生に進級したばかりのときのこと。
 私はいつものように放課後になるとここにきて、この机のいつもの定位置に座って勉強をしていた。
 私語厳禁の図書室には、テスト前でないと人が来ず、その日も私だけのはずだった。
 そこへ来たのが、陽之木くんだった。
 後で聞いた話では、足を怪我してバスケができず、見学してると動きたくなるから嫌で気分転換に図書室に来ていたらしい。

 陽之木くんは勉強に集中する私から一つあけて隣に座り、この『Where is Harry?』を大きく広げた。
 『Where is Harry?』は緻密に描かれた大量の人々の中からハリーという少年を見つけ出す遊び絵本。
 数学の問題を必死に解く私の横で、陽之木くんはハリーを必死に探していた。

 ハリーが見つからず唸り始めた陽之木くんに〝どうして近くに座るの〟〝別の席に行けばいいのに〟と苛立っていた私だったけど、懸命に探す様子が段々と気になって、気付けば私も横目でハリーを探し始めてしまっていた。
 すると突然、陽之木くんが「ハリーいなくね?詐欺かな」って声をかけてきたから、「ここです」と正解を教えてしまった。
 その時の陽之木くんのハッとした顔とキラキラした目が大袈裟で、つい笑ってしまった私に陽之木くんは、ニッと屈託ない笑顔を返した。

 それからハリーシリーズが何冊も出ていることを知った私たちは、時間が許す限りハリーを探した。
 下校時刻になったとき、勉強をさぼってしまった罪悪感で落ち込む私に陽之木くんは『学生の本分は遊び』って堂々と言ってのけたから、ひどく驚いたのだ。

 そう。 確か、その時だ。
 私の世界がひっくり返ったのは。

< 18 / 52 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop