陽之木くんは、いつもそうだ。
「……たぶん茅野先輩が思ってるより、翔先輩はずっと必死でしたよ」

 依田くんが意外なことを言ったので、思わず振り返った。
 その顔は、とても冗談を言ってるようには見えなくて、心臓が嫌な音をたてる。

 ガコン。 ボールが端を通って奇跡的に何も倒すことなく奥に消えた。

「ありえないよ」

 陽乃木くんが私なんかを相手に、何を必死になる必要があるの。
 それに陽之木くんは、いつだって涼しい顔で笑っていた。

「本当にありえないと思いますか」

 依田くんの全てを見透かしてしまいそうな目に、私の中で無かったことにしようとしたものたちが息を吹き返そうと騒ぎ始めた。

 ――彼の方はずーっと茅野さんを見てたのよ

「……違う」

 ――たぶん茅野先輩が思ってるより翔先輩はずっと必死でしたよ

「違う」

 ――茅野ちゃん 好きだよ

「違う、違う違う」

 陽之木くんは気まぐれで、何にも執着がなくて、マリナちゃんのことが好きらしくて、

「知らない、わかんないよ」

 私は投げやりにボールをレーンに放った。

 私はもう卒業したんだ。 もう終わりにしたんだから。 これ以上、なにも考えたくない。

「だからっすよ」

「!」

 依田くんが、私の手首を力強く掴んだ。

「逃げないでください。 翔先輩が伝えようとしてたこと、ちゃんと受け取ってください」

 掠れ声を震わせる依田くんの目が、濡れていた。

「じゃないと、翔先輩が可哀想です」

 ――やめて。
 やめて、やめて。
 聞きたくない。 望んでない。

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