陽之木くんは、いつもそうだ。
二人の卒業式
 ◇

 そして私は、今日卒業したはずの学校の門を再びくぐっていた。
 校舎から、吹奏楽部が演奏する耳馴染みのあるマーチが聞こえてくる。 午後の校舎には、もう部活動に励む在校生しかいないようだった。
 もう履くことはないだろうと思っていたクタクタの上履きに履き替えて、階段を上がる。
 二階の教室前の廊下を歩いていき、つきあたりを右に入って、食堂の横を通り過ぎたその先にある重たいドアを開ける。
 まだ少しだけ冷たさの残る風に、髪がふわりと宙を舞った。

 屋根なし、吹きさらしの二階の渡り廊下。
 私と陽之木くんの、いつもの場所。
 
 当たり前のように誰もいない渡り廊下で、私は陽之木くんがいつも座っていた場所に腰かけた。 いつもの場所に、もう身を縮こめないといけないような寒さはない。
 この景色の中で、私の姿は陽之木くんの目にどう映っていたんだろう。
 スマートフォンは音沙汰なく、ただ、サワサワと穏やかな風が頬を撫でていく。

 私と陽之木くんは、ただここで一緒にいただけの関係だった。
 たまたま知り合って、たまたま一緒にいただけの、ただの同級生。
 ねぇ、陽之木くん。 そうだよね。
 依田くんたち、なにか勘違いしてるみたいだったよ。
 私は陽之木くんの特別じゃない。 陽之木くんは私を揶揄うのを楽しんでいただけで、特別じゃなかった。 絶対そうだった。
 ……じゃないと困る。 そうじゃないと、困る。
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