陽之木くんは、いつもそうだ。
「かわいそうにねぇ」

 線香の独特な匂いと、喪服から漂うタンスの匂い。
 お坊さんのお経と参列者たちの啜り泣く声が響く中で、先に焼香を終えたおばあちゃんの呟きがすれ違いざまに聞こえた。
 焼香を待つ列に優先的に並ぶバスケ部の仲間たちが泣いている。
 マリナちゃんも、苦しそうに泣いている。 先生だって、クラスメイトだって、みんなみんな泣いている。 あまり面識ない人でさえつられて泣いている。
 私はというと、たくさんの同じ制服の中に紛れてその悲しそうなシーンを乾いた目で見ていた。
 私が陽之木くんの訃報を知ったのは、クラスの連絡網だった。
 陽之木くんは、放課後にバスケ部の仲間たちとボーリング場で遊んだ帰りの夜八時頃、雨が降りしきる中で信号待ちしていたところに操作ミスしたトラックが突っ込んできて、即死だったらしい。

「見て。 茅野さん、ケロッとしてんだけど」

 クラスメイトの女の子の声がした。

「あんなに陽之木くんに構ってもらってたのにね。 やっぱ人の心持ってないんじゃない?」

 陽之木くんは目立つ人だったから、廊下で会うたび話しかけられていた私は女子たちの僻み、妬みの格好の餌食だった。
 もし私が髪を巻いて赤リップを塗り、スカートをたくし上げるような明るい子だったらこんな風には言われなかったのかもしれない。

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