星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 弦の位置を教えてもらいながら、一音一音をひいていく。本来ハープは親指から薬指までを使うが、詩季は右手の人差し指だけで弾いていった。

 当然ながら、たどたどしいきらきら星になった。
「ぜんぜんきらきらしてない」
 詩季は絶望的に呟いた。

「こんぺいとうですらない。とげとげの重い鉄球が地面にめりこんでる感じ」
「おもしろいこと言いますね」
 くすっと笑って、絃斗はハープを彼女から受け取った。

 ぽろろろん、と指を滑らせてから、彼もまたきらきら星を弾いた。
 一音一音がまるで星がまたたくように発せられた。

 メインの旋律を右手で弾き、ときおり左手でぽろろろん、と音を添える。
 二周目には左手で伴奏を添え、たくさんの星が夜空に輝いているかのようだった。三周目にはもっとキーの高いところで天の川が流れるように奏でる。最後は弦の端から端へと流れ星のようにぽろろろん、と指を走らせた。

「すごい!」
 詩季は目を輝かせて拍手した。

 音色もさることながら、彼の所作もまた美しかった。
 長い指はなめらかに弦を撫でているだけのように見えるのに、腕の動きにつれてハープが揺れるのに、あやまたず音が紡がれる。
 ところどころで高く手を掲げるのも気品があった。最後に手で弦の振動をそっと抑える仕草は音楽を包み込むようだった。

「初めてハープを生で聞いたわ。こんなに素敵なのね」
「喜んでもらえて良かった」
 安心したように、満足そうに彼は微笑む。

「ハープ弾けないなんて嘘じゃない」
 詩季は素直に彼を褒めた。

 彼の顔から笑顔が消えた。

 迷子のような途方にくれた表情を見て、また失言した、と詩季は自分の迂闊さを呪った。最初に彼は弾きたくなさそうにしていたのに。

「さっきの、私もやってみたい。じゃららららんって弾くやつ」
 話題を変えようと言ってみる。
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