星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「逆に、ほめられた思い出もあるでしょ?」
 詩季が言うと、彼はうなずいた。
「幼馴染はいつも僕を褒めてくれて、続けて来られたのは彼女のおかげだと思います」

「素敵な方ね」
「だから僕は頑張れたんです。コンクールで優勝できたのも彼女のおかげです」

「優勝!? すごいじゃない」
「過去の栄光ですよ」

「私の過去なんてなんの栄光もないよ」
 普通の学生時代、普通の社会人。部活で大会に参加してもレギュラーにもなれず、チームはいつも一次予選敗退だった。

「コンクールって緊張する?」
「しますよ。だからいつも幼馴染に励ましてもらってました。優しくて、本当に素晴らしい女性です」

「もしかして初恋?」
「そうです」

「また励ましてもらえたら元気でるのかな。会いに行ってみたら?」
「毎日会ってますよ」
 では、彼女は今は彼と恋人同士なのだろう。
 なぜか胸がずきっと痛んだ。

「でも、今回はぜんぜんダメで」
「どうしてだろ」
「調子に乗ってるって、その通りだからです。実力以上に評価されている気がしていたときに評論家にけなされて、僕は逃げてしまったんです」

 なにから逃げたのだろう。またコンクールに参加する予定だったのだろうか。
 彼を励ますことを言わなくては。
 詩季は動揺を見せまいと言葉を紡ぐ。

「私も落ち込むことがあってね」
 絃斗は顔を彼女に向けた。

「元カレが結婚するんだって。私との時間を作れなくてもその人との時間は作れたんだって。未練はないし、悔しいとも違うんだけど、そんなこと思っちゃって」

「それでやけ酒したんですか?」
「それよりも仕事かな……ショップの店長をやっていて、服を売っているんだけど」

 20代前半に向けたデザインの服をおいている店だ。
 店長の彼女だけがほかの店員よりやや年齢が高い。
 ファッションの勉強は続けているが、感性がずれてきているのは感じていた。

 勉強をすればするほど、おしゃれがわからなくなってきてしまった。
 そのせいか、店の売上は伸びずに横這いだった。
 その矢先に異動の話が来た。
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