星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 続いてステージに向かった男性はギターを抱えていた。司会にオリジナル曲を歌うと紹介されていた。彼のファンらしき数人の女の子が黄色い声を上げる。
 マイクに向かって堂々と歌う。

 うまいなあ、と思って聞いていると、次の順番の人が目に入った。ママさんらしき二人組だったが、緊張して震えていた。おそろいのピンクの衣装を身に付けて「大丈夫よね」「大丈夫よ」と言い合っている。
 それを見て、急に詩季も緊張してきた。

 飾りつけられたステージ。
 少ないとはいえ聴衆がいて、彼ら彼女らは赤の他人だ。
 聞いているような聞いていないような人たちだが、歌えばどうあがいても彼らの耳にも声は届くことになる。

 ヘタクソって思われたら。音痴ではないはずだけど。
 がたがたと足が震える。心臓がバクバクと脈うつ。急に呼吸の仕方がわからなくなった。

 今からでも辞退できるだろうか。
 でももう準備をしてくれているし。
 なにより、絃斗のために何かをしたい。

「……大丈夫?」
 不安そうに絃斗がたずねる。
「大丈夫」
 詩季は、答える声も震えていた。

「顔、真っ青ですよ」
「だって、私が言ったの」
 あなたを傷付けるようなことを、私が。

「だから、あなたに自信を取り戻してもらわないと」
 にこっと笑おうとしたが、頬がひきつっただけだった。

「ごめん、あなたの嫌いな人の歌で」
「そんなことはどうでもいいんですよ」
「私ね、エトワ・ド・シエルが好きなの。なんだか力を貰える気がして。テンポがよくて、歌詞も前向きで」

 絃斗はなんとも言えない複雑な表情を見せた。
 男性がギターを抱えて戻り、ピンクの二人がステージに立った。

「次の方、こちらへ」
 係員がステージの袖に詩季を呼ぶ。
 絃斗はため息をついた。
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