星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
あきれられている、と詩季は悲しく思う。
だけどこれも自分がやったことのせいだ、とぐっとこらえる。
大丈夫、数分あそこにたって、歌うだけのこと。
カラオケでもよく歌うんだから、きっと大丈夫。座っている人たち、どうせ誰も聞いてないんだから。
ピンクの二人組がはやりの女性グループの歌を歌っている。ところどころ音をはずしたり歌詞を間違えたりしている。なんとか歌い終えて、上気した顔で戻って来た。
「間違えちゃった!」
「大丈夫よ」
二人できゃっきゃと言い合いながら下がって行く。
「次の方は瑞垣詩季さん。エトワ・ド・シエルの『恋』を歌います!」
司会が紹介して、詩季は震える足を踏みだした。
ステージに上がると、景色は一変した。
視界いっぱいに観客席が広がる。
さきほどまで無関心にそっぽを向いていた観客が値踏みするように詩季を見る。
緊張がさらに大きな波となって彼女を襲う。
立っているのがやっとだ。足だけでなく、マイクを持つ手も震える。
こんな中でとうてい歌えるとは思えなかった。
暑くもないのに手に汗がにじむ。
「待って、僕も参加で!」
絃斗が大股で歩いて来た。
ストラップをかけてハープを抱えていた。係員がスタンドマイクを持って来て彼の前に置く。
ぽろんぽろん、と試し引きをしてマイクの位置を調節する。
今までと違う様子に、観客がさらに彼女らに注目する。
退屈そうな審査員がペンをまわすのをやめて彼女らの様子を見守った。
「……いいの?」
詩季がたずねると、絃斗はにっこりと笑った。
「僕が伴奏をするから、思い切り歌って」
それだけで涙があふれそうになった。
詩季がうなずくと、彼は正面を向いて弾き始めた。
小柄で頼りないとすら見えた彼の背が、今は大きく見える。
歌い出しを間違えないように、伴奏に耳を傾ける。
が、慣れないハープの伴奏だったせいか、歌い出しがズレた。
だけどこれも自分がやったことのせいだ、とぐっとこらえる。
大丈夫、数分あそこにたって、歌うだけのこと。
カラオケでもよく歌うんだから、きっと大丈夫。座っている人たち、どうせ誰も聞いてないんだから。
ピンクの二人組がはやりの女性グループの歌を歌っている。ところどころ音をはずしたり歌詞を間違えたりしている。なんとか歌い終えて、上気した顔で戻って来た。
「間違えちゃった!」
「大丈夫よ」
二人できゃっきゃと言い合いながら下がって行く。
「次の方は瑞垣詩季さん。エトワ・ド・シエルの『恋』を歌います!」
司会が紹介して、詩季は震える足を踏みだした。
ステージに上がると、景色は一変した。
視界いっぱいに観客席が広がる。
さきほどまで無関心にそっぽを向いていた観客が値踏みするように詩季を見る。
緊張がさらに大きな波となって彼女を襲う。
立っているのがやっとだ。足だけでなく、マイクを持つ手も震える。
こんな中でとうてい歌えるとは思えなかった。
暑くもないのに手に汗がにじむ。
「待って、僕も参加で!」
絃斗が大股で歩いて来た。
ストラップをかけてハープを抱えていた。係員がスタンドマイクを持って来て彼の前に置く。
ぽろんぽろん、と試し引きをしてマイクの位置を調節する。
今までと違う様子に、観客がさらに彼女らに注目する。
退屈そうな審査員がペンをまわすのをやめて彼女らの様子を見守った。
「……いいの?」
詩季がたずねると、絃斗はにっこりと笑った。
「僕が伴奏をするから、思い切り歌って」
それだけで涙があふれそうになった。
詩季がうなずくと、彼は正面を向いて弾き始めた。
小柄で頼りないとすら見えた彼の背が、今は大きく見える。
歌い出しを間違えないように、伴奏に耳を傾ける。
が、慣れないハープの伴奏だったせいか、歌い出しがズレた。