星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 その背に腕を伸ばしていいものかわからず、詩季はそのまま目を閉じた。

 彼はしばらくの抱擁ののち、ゆっくりと、そうっと彼女から手を離した。
 詩季は大きく息をついた。

 無理矢理笑って彼を見ると、彼は微笑を返してくれた。
 頬の涙のあとを拭ってくれて、詩季はまたうつむいてしまう。

「自分でできるから」
「あ、ごめんなさい」
 照れたように彼もまたうつむいた。

 バッグからティッシュを出してふいていると、二人をカラオケ大会に誘った女性係員が近寄って来た。

「すごく良かったです」
 彼女は興奮して絃斗に言った。
「ありがとうございます」
 絃斗は慣れた様子でにこっと返し、ハープの入ったケースを背負う。

「もしかして、満星絃斗(みつほしけんと)さんじゃないですか?」
 絃斗は顔をひきつらせた。

「違います」
「でも……」
「違いますから! 行きましょう!」
 絃斗は詩季の手をつかんで走り出した。

「え、なんで!?」
 わけもわからず、詩季は絃斗について走った。
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