星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 洗濯が終わるより早く絃斗が出て来た。
 渡した着替えはなんとかなったようで、それを着てくれていた。

「ごめんなさい、すっかりお世話になってしまって」
「いいよ、大丈夫」
 恐縮する絃斗に、詩季はぎこちなく微笑した。

「今日も泊っていけば?」
「え!?」

「逃げてるんでしょ。行くあてはあるの?」
「ホテルくらい探しますよ」

「今から? 昨日も泊ったんだし、私はもう一泊くらいかまわないけど。洗濯物のこともあるし。全部洗っちゃったわよ」
「そんな、パンツまで……?」

「それは触ってないわ。さっき自分で片付けてたじゃない」
 ハープのケースのサイドポケットをごそごそしていたから、たぶんそれだろうと詩季は思った。

 彼は少しほっとしたように、だけど不安そうに眉を下げた。
「僕、一応は男なんですけど……」
「何もしないでしょ。昨日も何もなかったんだし」

「ですけど……」
「明日には出て行ってもらうよ。私も仕事だから。午後出勤だけど」

「はい……」
 迷うように視線をさまよわせたあと、彼は意を決したように言った。

「お願いします。何もしませんから」
「なにその言い方」
 詩季が噴き出すと、絃斗は困ったように笑った。



 就寝まではテレビを見たりたわいもない話をしたりして過ごした。
 絃斗はその合間にハープの手入れもしていた。

 絃斗はまた床で寝るというので、詩季は毛布を彼に渡した。
「予備の布団なんてないから、ごめん」
「大丈夫です」

「コンサートをするほどの人を床に寝かせるのは嫌なんだけど」
「僕も男ですから、女性を床に寝かせるなんてできません!」
 気にはなったが、そう言う彼の意地を立てることにした。

「明日は七時起きでもいい?」
「わかりました」

「朝ごはんは私が作るから、何もしないでね」
「僕が作るとなんでも焦がしますもんね」
 苦笑する絃斗に、詩季も苦笑した。
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