星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
ベッドに入った詩季は、寝付けなくてずっとごろごろしていた。
絃斗が扉の向こうにいる。
そう思うと、変に胸がどきどきしてしまった。
今日——正確には昨日の夜だが——出会ったばかりの男性だ。
なのに。
恋ってこんなに早く落ちるものだったっけ。
詩季は布団をかぶる。
かわいい顔をしている絃斗。そのせいか年齢よりも幼く見えて、気弱そうな見た目や言動のせいもあって、まったく年上には思えない。
だけど優しくて、その手が奏でる音楽は心を星のように輝かせてくれる。
落ち込んでいたのに、彼といるとそんなこと忘れてしまっていた。
彼のやわらかな微絵み、透き通った声。
服を選んだら喜んでくれたこと、一緒にハープを弾いたこと、一緒にステージに立ったこと、手を引かれて走ったこと。——抱きしめられたこと。
そんなことばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡った。
明日にはもう、彼は去ってしまう。
そうして、二度と会うことはないだろう。
彼は手の届かない、星のような人だ。
耐えられなくなって、半身を起こす。
扉をじっと見つめた。
暗い部屋の中、扉の形もあいまいだ。ぼんやりと四角の板を見つめていると、やはりじっとしていられなくなって立ち上がった。
暗がりの中、ドアのレバーはなにも言わずにいつものようにそこにある。
この扉の向こうに、絃斗がいる。
もう眠っているだろうか。
毛布だけで寒くないだろうか。
枕がわりのクッションは高さがあっているだろうか。
硬い床は寝心地が悪いのではないだろうか。
彼は、自分をどう思っているだろうか。
ドアのレバーに手をかける。
が、動かすことはできなかった。
扉を開けて、どうするというのか。
ぐっと唇を噛んで、ドアに背を向ける。
彼には恋人がいる。毎日会っているという初恋の人が。
ベッドに横になると、布団を頭までかぶって目をつぶった。