星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
星が帰る朝
気がついたら朝だった。
あまり眠った気がしなかったが、ゆるやかなまどろみはあった。
アラームを消して起きる。ドアを開けると、もう絃斗は起きていた。
「眠れた?」
「眠れましたよ」
詩季の問いに、やわらかく微笑んで答える。
「ごはん、一緒につくらせてください」
「作るってほどのことはしないけど……じゃあ、ゆでたまごを」
鍋に水を入れて彼に渡す。彼はおそるおそるたまごを入れて、火にかけた。
トースターの使い方を教えてトーストを作ってもらう。
詩季はホウレンソウをレンジアップしてウィンナーと一緒に炒めた。
コーヒーは彼に淹れてもらった。
焼けたトーストにたっぷりとマーガリンをぬって、二人で頬張る。
さくっと音が響いて、まろやかな塩味が口に広がった。
「今日もおいしいです」
彼はにこにこと朝食を平らげた。
「よかったわ」
「今日のメニューなら僕でも作れそうです」
うれしそうな彼の声を聞きながら、詩季は皿を洗う。
ちらっと時計を見ると、まだ八時前だった。
「なんだかすごく時計を気にしていますね」
「そう?」
「食事中もちょいちょい見てましたよ」
絃斗に言われて、詩季はうつむく。
「……今日、出勤だから」
ごまかすように言う。
「何時に家を出るんですか?」
「遅番だから、11時くらいに」
洗い物を終えて、干していた彼の服を確認する。なんとか乾いていた。
畳んで、彼に渡す。
「ありがとうございます」
彼はにこっと笑った。
詩季は笑顔を返そうと目を細めた。
絃斗はけげんそうに少し首をかしげた。
「なんだか悲しそう」
「そんなこと……」
ないわ、と言う前にインターホンが鳴った。
どきん、と心臓が大きく脈うった。
「こんな時間にお客さん?」
ようやく八時になろうとしている頃だった。