星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
本部から視察が来たのは、それから一週間後だった。
部長と、元カレでバイヤーの及川が来た。
二人は予定通りの時間に現れ、店を見て回った。
「提案は電話でも聞いたけど……もう一度聞かせてもらえる?」
部長が言う。
詩季は緊張で胸がどきどきしていた。
「当店は売り上げが低迷していました。この駅ビルができた当時は近くのベッドダウンにたくさんの人が入居し、若者もあふれていました。ですが、当時の若者はもうこの街を出て、少子化のせいもありますが、若者が減っています。それなのに店はずっと若い人をターゲットにしています。絶対数が少ないですから売上は伸びません」
「だが、この店のターゲットは若年層だ」
「それにこだわっていては売上が作れません。なによりお客様に満足していただけるように、若者も大人も喜ぶ服を置きたいんです」
会社の方針に逆らうようなものだ。上の年齢に向けた店舗は別ラインで存在している。この店でやる意味があると思ってもらえるのかどうか。
ターゲットがあいまいになれば客足が落ちるのが普通だ。年齢で体型も変わるから、似合うかどうかの個人差は大きくなる。最近の売上は少し上向いたが、伸び続ける保証はない。
「この場所にあるからこそ、こちらのお客様に合った服を提供したいと思っています」
「どう思う?」
部長がたずねる。
「俺は悪くないと思いますけどね」
及川が答える。
「うちのラインの服をきちんと置いてある、なのに若すぎず渋過ぎない。なにより、実際にここ最近の売上が増えています」
「そうなんだよな……」
部長は思案顔で店内を見て、通路を行き交う人を見た。
「しばらくその方向でやってみるか」
「ありがとうございます!」
詩季はがばっと頭を下げた。
「実際、その通りなんだよな。気付いていないとおかしいことだった。ずっと売上が下がっていたんだし。ただ、君が来てから下がらなくなったから、見落とされていたな」
下がらなくなった、とは。
言い方にひっかかり、詩季は顔を上げて部長を見た。