星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「ずっと売上を上げられなくて……」
「下げ止まらせることができたんだ、君が優秀な証拠だ」
 及川が笑みをこぼして言った。

 評価されていた。
 詩季の胸がどきどきと高鳴った。

「異動先でも期待しているよ」
 部長がにこやかに言った。

「がんばります!」
 マネキンに目をやると、つんと澄ましている姿が、どこか誇らしげに見えた。




 家に帰るときまでうきうきした気持ちが止められず、足は軽かった。
 帰宅してポストを見ると、DMに混じってその封筒があった。

 送り主は満星絃斗だった。

 どきっとした。
 靴を脱ぐのももどかしく部屋に入り、バッグを置いてその封を切る。

 満星絃斗のチケットが入っていた。彼のツアーの、彼女の住む市で行われるものだった。
 付箋が貼ってあって「絶対楽屋に来てね!」と書かれていた。

 それだけだった。
 それだけで胸が熱くなった。

 今日はなんていい日なんだろう。
 チケットを胸に抱きしめて目を閉じる。

 付箋に一言なんて、手紙を書く暇もないほど忙しくしているに違いない。それでも彼は自分を招いてくれた。

 彼は星だ。自分とは違う世界で輝いている。

 自分は星ではない。輝けないし、置いて行かれたりもする。

 だけど、と詩季は思う。

 自分の足で、また歩いて行ける。少しずつ、ゆっくりだけど。

 自分で輝けなくても、だからこそ星の美しさを知っている。

 彼の奏でるきらきら星が耳に蘇り、瞼の裏には満天の星空が広がった。
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