星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 ダイニングに行った詩季は驚いた。
 目玉焼きはなぜか両面が真っ黒、トーストも丸焦げで苦そうだ。

 彼女が声もなく見ていると、彼は恥ずかしそうに顔を赤らめてうつむいた。

「ごめんなさい、料理は初めてで」
「なんで初めてを人んちで挑戦したの?」
「す、すみません」
 彼は身を縮めた。ただでさえ小柄な彼は、さらに小さく見えた。

 白い皿の上の黒い物体を改めて眺める。目玉焼きはかろうじて白身と黄身が判別できる程度。パンは四角い消し炭に成り果てていた。

 詩季は仕方なくそれらを捨てた。ふたつきのゴミ箱にほうりこまれたそれは、なぜかほかのゴミとはなじまず浮いて見えた。

 詩季は皿とフライパンを洗い、冷蔵庫を確認した。
 卵とベーコンは残っている。パンもまだある。

 パンにマヨネーズを塗り、とろけるチーズを載せた。その上に冷凍コーンを満遍なく載せ、粉チーズを振ってトースーターに入れる。
 冷凍したほうれん草をレンジで解凍する。

 パンが焼けるまでの間にベーコンを焼き、卵を割り入れる。
 少し水を入れて蓋をする。
 彼は興味津々でそれらを見ていた。

 しばらくして彼女が蓋を開けると、みごとな半熟の目玉焼きになっていた。

「すごい、魔法みたい」
 彼は大喜びで手を叩いた。
 チョロいなこの男、と詩季は思う。が、まんざらでもない。

 目玉焼きを皿に載せて塩をかけ、レンジアップしたほうれん草に塩コショウをして添えた。
 そうこうするうちにパンが焼ける。

 コーヒーは彼が淹れてくれたのをレンジで温め直した。
 一緒にいただきますをしてから食べ始める。

 なかなかの出来上がりだった。パンはさくふわだったし、マヨネーズの塩味にコーンの甘みが絶妙だ。チーズの旨味ととろみがそれをいっそう引き立てる。

 目玉焼きは黄身がとろっとしていた。それにホウレンソウを和えるのもまたおいしい。ベーコンがいいアクセントになっていた。
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