星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
いよいよ、コンサート当日が訪れた。
その日は平日で、詩季はシフトを調節して休みにしていた。
午後六時半開場、七時開演で九時閉演予定だ。
待ちきれない気持ちを押さえて、六時半に会場に入った。
この市の市民会館に来るのは初めてだった。
会場の壁には彼のポスターが貼ってあった。
『ハープ界のダイヤモンドがつまびくハープの調べが流れる夜』
ダサい、とポスターの文言を見て詩季は思った。
写真は素敵だし、構図も良かった。だが、文章だけがひどい。
彼のハープはあんなに素敵なのに。もっとすごいうたい文句をつけてほしい。短い文章の中でハープが二回も使われているあたり、本当にセンスがない。
ハープ界の超新星! と書かれているものもあった。超新星なんて星の最後の爆発じゃん、と不機嫌に眺める。彼はこれからもっと輝くだろうに、最後の輝きみたいに言ってほしくなかった。
物販があったので、覗いてみた。
ハープの絵柄がついたバッグや名前が入ったマグカップなどがあった。
ハープの形のマグネットと彼が演奏している姿のクリアファイル、ポストカードを買った。
全席指定で、詩季の席は二階の奥のはしっこだった。赤茶の椅子の座面を下ろして座り、パンフレットを見て待つ。
写真の彼は、ハープを手に真剣な顔をしていた。彼の略歴と今日のプログラムが書かれている。
時間とともに人が増え、二階の奥まで満席になった。圧倒的に女性が多かった。アイドルのライブみたいに飾ったうちわを持った人もいた。
七時を迎え、開演する。
ステージからは遠い席だったから、登場した彼の姿は小さく見えた。
それでも彼が緊張して現れたのがわかったし、応援の気持ちを込めて、ほかの観客に負けないくらいに大きく拍手をした。
彼は深々とお辞儀したあと、彼女の席のほうを見た。
目が合った気がしてどきっとした。こんなに遠くてわかるわけないはずなのに。
彼がグランドハープの前に座ると拍手がやみ、緊張した静寂が会場を包んだ。全員が彼を注目してその音を待つ。
手がすっと上がって最初の一音が響いた。