星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 あとはもう、音楽の渦に引き込まれる一方だった。
 音は澄んでいて、カラオケルームで聞いたときとはまた違っていた。そのうえ、遠い席でもまったく距離を感じさせなかった。

 旋律が波のように大きくなったり小さくなったりして届く。低いくぐもったような音も高音の軽い音も心地いい。ときに大胆に、ときに繊細に、優しく耳をくすぐる。音色が全身を包み込むようだ。

 最初の数曲はグランドハープでの演奏だった。
 両手とともに両足もペダルの操作に使っている。よくこんがらからないな、と詩季は感心した。

 曲によってピアノと一緒に演奏したり、小さなハープにしたり、趣向をこらして楽しませてくれた。

 燕尾服を着て演奏する絃斗はとても堂々としていて、最初に会ったときの気弱そうな彼とは見違えた。

 コンサートの演目が終わり、観客がアンコールを望む拍手をする。詩季もわくわくしながら拍手をした。

 一度降りた幕が上がり、中央にマイクを持った絃斗が立っていた。
 わーっと観客から声が上がり、期待の拍手が満ちる。

「今日は来てくださってありがとうございます」
 一段と観客の声と拍手が大きくなった。

 彼の目がまっすぐに自分を見たような気がして、詩季はまたどきっとした。

「今日はみなさんにお知らせがあります」
 彼が言い、会場がざわついた。

「もうお気づきの方も多いかと思いますが、エトワ・ド・シエルは僕です」
 会場からどよめきが起きた。悲鳴のような声をあげる人もいるし、やっぱり、という声も上がった。

 そういえば、部屋で歌っていた彼の声はとても似ていた。
 詩季の胸が熱くなる。
 自分は彼の歌を生で聞いたのだ。そんな人、なかなかいないだろうに。

「名前をフランス語にしたんですが、安直でしたね。英語よりはばれないかと思ったんですけど」
 彼が恥ずかしそうに笑うと、会場からくすくす笑いがもれた。

 いつかと同じ笑顔だ、と詩季もくすっと笑った。

「実は僕、ツアー前は自信をなくしていたんです。ですが、好きな人が自信をとりもどさせてくれました」

 会場に歓声とどよめきが走る。好きな人って誰、と隣の席の女性が連れの女性に話しかけた。
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