星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 私は知ってるのよ、と言いたい気持ちがわいてくる。
 初恋の人。すごいかわいくて、お似合いなの。
 胸がピリッと痛んだ。

「彼女はすごく楽しそうにハープをひいていて、僕も昔はそうだったなあって懐かしくなりました。一緒に歌って演奏して、評論家なんて気にしなくていい、楽しんでくれる人がいる、それが答えだって思いました」
 詩季は絃斗と一緒にステージに立ったことを思い出す。初恋の彼女とも一緒に演奏したのかと、ちょっと嫉妬した。

「僕は別名義で歌を出しましたが、心のどこかで逃げがあったんです。恥ずかしいって。だけどもう逃げません。エトワ・ド・シエルが僕です。愛する人が僕に逃げない勇気をくれたんです。その人を思って新作を作りました。」
 期待の拍手で会場が沸く。
 すごい、と詩季は胸を熱くしながら拍手した。

 彼はいつかのような中型のハープを抱え、弾き始めた。
 新曲はポップで、サビでは切なく、ラストは感動的に歌い上げていた。
 しっとりと音を輝かせ、余韻に震えるハープの弦を手でそっと抑える。

「ありがとうございました」
 歌い終えた彼が立ち上がってお辞儀する。
 ホールに拍手が満ちる中、詩季は席を立った。
 涙があふれて抑えきれなかった。

 彼の歌は愛にあふれていた。
 自分ではない人への愛に。

 彼が幸せであることがうれしいと同時に、切なくて、苦しくて、鼻の奥がツンと痛くなった。

 逃げるようにホールを出ると、ぼやけた空に星がきらめいていた。
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