星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
「あなたは僕の歌に力をもらうんだって言ってくれました。僕はその言葉に力をもらいました」

「……私はあなたを傷付けたのに」
 子供のころだとはいえ、いまだに思い出してしまうほどショックだったという言葉を。

「批評家が僕をけなすまで忘れていたことです。それに、吟遊詩人って職業を指してるだけです」
「けど……」

「僕はむしろ運命だと思いましたよ。子供のころにも会って、偶然再会して」
 絃斗はずっとにこにこ笑ったままだ。戸惑う詩季にかまわず、続ける。

「あなたの気持ちに応えたかった。カラオケ大会で、僕のために勇気をだしてステージに向かったんでしょう? それがどれだけうれしかったか、あなたにわかります?」
 わからない。詩季は黙って首を振った。ただ必死だっただけだから。

「あのとき、僕は恋に落ちました。人のためにそれだけがんばれる、あなたのことが好きです」
「今、なんて……」

 耳がおかしくなったのだろうか。
 好き、って言ったように聞こえた。
 心臓がばくばくした。
 まさか、そんなことあるわけない。

「歌、聞いてくれましたよね。あなたへの気持ちを歌ったんです」
 絃斗はあいかわらずにこにこ笑っている。

「初恋の人と……つきあってるんだよね」
「つきあってないです。彼女はもう結婚してますよ」

「毎日会ってるって」
「お隣さんだから、毎日のように顔を合わせますよ」

 詩季は自分の頬に手を当て、記憶をさぐる。
 確かに、彼は一言も彼女が恋人だなんて言っていなかった。

「僕はフリーです。恋人も婚約者も妻も、ついでに愛人もいません」

 絃斗は詩季の手をとった。
 大きくて、温かい手だった。細い指がなめらかで、指先は硬かった。
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