星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
 ふいに、噴水の水が噴き出した。異常な高さに上がり、落ちた水のしぶきが大きく跳ねる。

「うわ!」
「なんで急に!?」
 しぶきがかかり、二人は慌てて立ち上がる。けっこう水をかぶってしまった。
 噴水は、星に満ちた天に昇るように、大きく吹き上がり続ける。

「噴水、壊れてますよね」
「こんな壊れ方って、ある?」
 二人で唖然と見上げる。水柱は二人を意に介することなく水を天に放つ。

「……また洗濯してくれますか?」
「燕尾服は洗ったことないなあ」
 くすくすと笑って彼を見る。

「着替え、あなたの家にありますよね」
「取りに来てくれる?」
「行きますよ」
 絃斗はまっすぐに詩季を見つめ、それからぎゅっと抱きしめた。

 詩季はその胸に頭をもたせかける。
 温かな鼓動が耳に届いた。

「ねえ、知ってますか? 星って歌うんですよ」
 絃斗が言う。顔を上げると、彼は空を見上げていた。

「そうなの?」
「正確には歌じゃないんですけど。恒星のプラズマが、人の耳には聞こえない音に似たなにかを出してるんだそうです」

「星が歌う……なんだか神秘的ね」
 だけど、と彼女は思う。

 星はもっと近くにあったし、輝くような声で歌ってくれた。

 詩季はそっと目を閉じた。

 星空はひそやかにきらめき、二人を優しく照らし続けた。


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