星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~
星が流れるグリッサンド



 カラオケに着いてフリータイムで部屋をとってから、詩季は気がついてしまった。
 お礼を断って家を出てもらえば良かっただけなのに。

 せっかく今日は休みなのに、と彼を見るとハープのケースを背負ったままきょろきょろしている。

 なんてことはないカラオケ店だ。狭くて閉鎖的でドアは大部分がガラスでできている。敗れたソファをテープで適当に直してあるのもよくある感じだった。ドリンクはセルフのフリードリンク式だった。詩季がオレンジジュース、絃斗はコーラを持ってきた。

「カラオケ来たことないの?」
「大音量は耳に悪いから来ないんです」
 耳の健康にそこまで気を遣う人を見たことがなかった。

「ハープって大きいのね」
「グランドハープはもっと大きいですよ。これは指ならし用の中型だから25弦です」
 丁寧にケースから取り出し、膝の上において肩にもたせかけ、ぽろろろん、と指を滑らす。彼の上半身とほぼ同じ大きさだった。 

「天使が持ってるのとは形が違うのね」
「まるっこいやつですね。あれはリラといいます」 

「音楽の教科書に載ってたハープは人の背丈より大きかったわ」
「グランドハープですね。正式にはダブルアクションペダルハープといいます。オーケストラにも使われます」

 絃斗はまたぽろん、と音を鳴らす。
「ハープにもいろんな種類があって、説明すると長くなります。ハープと名前がついていても違うものもあります。ハーモニカをブルースハープって言うでしょう?」
「詳しいのね」

「弾いてるくらいですから」
 絃斗は苦笑した。 

 詩季はハープをまじまじと見た。
 弦は白かったが、一定間隔で赤い弦と青い弦があった。彼が肩にもたせかけている側には蔦のような飾りが描かれていた。

「リクエストはありますか?」

「じゃあ、エトワ・ド・シエルの『恋』を。最近はまってるんだ。途中にハープの独奏もあるの。ピッタリじゃない?」

 とたんに彼は顔中に皺を寄せた。
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