あなたと普通でトクベツなこと。
すれ違う人たちは八重を見て皆感嘆の声をあげる。
そんな声が耳に届いてはいるものの、聞こえないフリをした。
お気に入りの赤い牡丹柄の着物を褒めてもらえるのは嬉しいが、まるで別世界の人物を見ているかのような視線を向けられるのは好きじゃない。
自分が普通ではないと突き付けられたような気分になるからだ。
せめて幼馴染の鏡花や那桜がいてくれたらよかったのに、新年ともなるとそれぞれ家のことで忙しいので仕方ない。
再び小さく溜息をつきながら、大きな鳥居の前で深々と頭を下げた。
一礼してから鳥居を潜り、手水舎へ向かう。
ここでも軽く一礼してから、右手で柄杓を持って水を汲む。まず左手を清め、柄杓を持ち替えて右手を清める。
また右手に持ち替えて左手に水を注ぎ、口をすすぐ。
最後に残った水を持ち手に流し、軽く一礼してから戻った。
すぐにSPがハンカチを差し出してくれた。
「流石はお嬢様。完璧なまでのお手水でした」
「これくらい常識ですわ」
「ですが次回は口をすすぐ真似だけにしてください。どこから汲んだかわからない水では、お嬢様のお体に悪いですし旦那様が心配されます」
「……」