あなたと普通でトクベツなこと。
そんな八重が真っ先に思い浮かんだのは、赤髪の少年のことだった。
彼の名は寒田明緋。
燃えるように赤い髪がトレードマークのヤンキーかと思いきや、ピュアで人懐っこいギャップがある少年だ。
明緋とは沖縄での修学旅行中に出会った。修学旅行ですらSPが付いて監視される窮屈さに息ができなくなりそうになっていた時、偶然その場にいた明緋が八重を連れ出してくれた。
明緋と過ごした束の間の自由な時間はとても刺激的で得難い経験だった。
それ以来、連絡先を交換してLIMEのやり取りをしている。
横浜の高校に通っている明緋とは沖縄以来会えていない。
彼にまた会いたいとは思うけれど、これが恋なのかどうかは八重自身わかっていなかった。
他愛のないメッセージのやり取りは楽しい。楽しいが、今の微妙な関係性を楽しんでいたいという気持ちもある。
「(……なんて、今の関係が壊れるのが怖いという臆病者なだけですわね)」
内心で自嘲気味に笑いながら、人の流れに身を任せていたらいつの間にか八重の番になっていた。