オレンジ服のヒーローの一途な愛
結局、チケットを買えたのは上映時間ギリギリだった。
時間があればポップコーンも買いたかったと翔ちゃんは残念そうにしたけど、あれだけ食べてさらにまだ食べるのはさすがに身体に悪い。
混み合うフードカウンターをスルーして、5番シアターへと向かう。
明るい廊下からシアター内への通路を入れば、すでに中は暗く、スクリーンだけが光を放って今後公開予定の映画の宣伝が流れている。

なぜだか心臓がざわざわし始めた。

「えーと、Dの5と6……」

チケットと座席を交互に見ながら先に歩き出した翔ちゃんの少し後ろをついていく。

……どうしよう。鼓動がどんどん早くなって、全身に振動が伝わる感覚に陥る。
呼吸が少し浅くなっているのがわかる。

「あおい、あそこの通路ーー」

振り返った翔ちゃんが言葉を止めた。

「あおい?どうした?」
「なんか動悸がして……」

胸を押さえると、私の目線まで屈んだ翔ちゃんが、じっと私を見つめる。

「大丈夫。ゆっくり深呼吸しろ」
「え?う、うん」

翔ちゃんの言う通り、呼吸に意識を集中する。
少しして、よし、と翔ちゃんが呟いた。

「そのまま深呼吸繰り返してろよ」
「うん……ひゃっ!!」

突然身体が浮いて、変な声が出た。
なぜか横抱きにされて、来た道を戻っていく。

「え?え?翔ちゃん?」

何が起きているのかわからず足をバタバタさせるものの、落ちたら大変だという危機感はしっかり働いていて、思わず翔ちゃんの首の後ろにしがみつく。

「暴れるな。おとなしくしてろ」
「だって……」

すれ違う人がじろじろ見るし、微かながら黄色い声も聞こえる。
恥ずかしくて顔中が熱い。
こんなの、悠長に深呼吸なんてしていられるわけがない。

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