オレンジ服のヒーローの一途な愛
「お見合いの話が出たから急に話す気になったのか?」
「いや、それもあるけど……」
言いかけて口を噤む。
あのエレベーターの件を大樹は知らないのだし、言ってはいけないことになっているのだ。
あのとき、エレベーターの中はサウナのような蒸し暑さだった。
あともう少し遅ければ本当に死んでいたかもしれない。
そう思ったらいてもたってもいられなくなった。
そのくせ、口止め料と称してふたりで出かける機会を作ることができ、あおいが観たいと言っていた恋愛映画でムードを盛り上げようなんて計画を立てていたのに、結局肝心なことを言えなかった。
海で俺の言葉に困惑の表情を浮かべたあおいに、『冗談だよ』なんて誤魔化すことしかできなくなったのだ。
「俺はお前を信頼してるし、あおいだってお前のこと信頼してるじゃん。どこぞの馬の骨ともわからん男と見合いされるより全然いい」
「馬の骨って……いや、信頼されすぎてるのも考えものだろ。あおいにとって俺はただの兄貴分だし」
「んー、俺はあおいの気持ちはよくわかんないんだよな。好きな男がいるか聞いても『別にいないよ』っていうし、彼氏がいたこともないはずだし」
「お前が阻止してたからな」
「え?なに?」
「いや、なんでも」
大樹はあおいに近づこうとする男をことごとく追い払っていた。
あおいの友人たちにも圧力をかけて、男との出会いを遠ざけるようにしていたくらいだ。
俺にしてみれば正直ありがたいことだったが、あおいにとっては不憫な話だ。
鈍感なあおいは、自分の兄がそんなふうに裏で手を回していたことに気づいていなかっただろうけど。
「いや、それもあるけど……」
言いかけて口を噤む。
あのエレベーターの件を大樹は知らないのだし、言ってはいけないことになっているのだ。
あのとき、エレベーターの中はサウナのような蒸し暑さだった。
あともう少し遅ければ本当に死んでいたかもしれない。
そう思ったらいてもたってもいられなくなった。
そのくせ、口止め料と称してふたりで出かける機会を作ることができ、あおいが観たいと言っていた恋愛映画でムードを盛り上げようなんて計画を立てていたのに、結局肝心なことを言えなかった。
海で俺の言葉に困惑の表情を浮かべたあおいに、『冗談だよ』なんて誤魔化すことしかできなくなったのだ。
「俺はお前を信頼してるし、あおいだってお前のこと信頼してるじゃん。どこぞの馬の骨ともわからん男と見合いされるより全然いい」
「馬の骨って……いや、信頼されすぎてるのも考えものだろ。あおいにとって俺はただの兄貴分だし」
「んー、俺はあおいの気持ちはよくわかんないんだよな。好きな男がいるか聞いても『別にいないよ』っていうし、彼氏がいたこともないはずだし」
「お前が阻止してたからな」
「え?なに?」
「いや、なんでも」
大樹はあおいに近づこうとする男をことごとく追い払っていた。
あおいの友人たちにも圧力をかけて、男との出会いを遠ざけるようにしていたくらいだ。
俺にしてみれば正直ありがたいことだったが、あおいにとっては不憫な話だ。
鈍感なあおいは、自分の兄がそんなふうに裏で手を回していたことに気づいていなかっただろうけど。