オレンジ服のヒーローの一途な愛
あれこれ考えながら道具の補充をしていたら、ふと焦げ臭い匂いが鼻をついた。
今、この店のエステ関連の機器は全部止まっている。
アロマディフューザーは稼働しているけど、そこから匂いがしているわけではなさそうだ。
なにげなくサロンのドアを開けて、頭が真っ白になった。
グレーの靄がかかっていて、廊下の先が見えない。
同時にけたたましい音が上から鳴り響いた。火災報知機だ。
その音が私をパニックに陥らせる。
これ、今どういう状況なの?何が起きているの?
目をこらすと、階段のほうからは黒い煙がもくもくと立ち上っている。
どう考えても火事だ。
しかも火元はこの建物の下のほうの階だろう。
そうだ、消化器……
店を出てすぐの脇に設置されている消化器を手に取り、使い方を確認する。
安全ピンを抜き、重い本体を持ち上げて黒い煙の近くまで移動する。

「ゴホッゴホッ」

漂ってくる煙にむせながらレバーを握ると、なぜか手応えがない。
力任せにもう一度握ると、今度はバキンと手応えがありすぎるくらいの嫌な音が響いた。

「嘘でしょ……」

折れたレバーの破片を持って茫然とした。
なにこれ。私が使い方を間違えてドジった?いや、違うよね。
レバーが使えなければ消火薬剤は出てこない。
そもそも火が見えないのに、煙に吹きかけたところで効果はないんじゃないだろうか。
どっちにしたって消化器一本でなんとかなるとは思えない。
今いる三階が最上階なのだから、上に逃げることもできない。
どうしよう。打つ手が見つからない。

「ゴホッゴホッ」

ひとまずサロンへ戻り、煙が入ってこないようにドアを閉めた。
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