オレンジ服のヒーローの一途な愛
ポケットのスマホを手に取れば、真希さんからの着信が何度もきている。
仕事中はいつもマナーモードにしているから気づかなかった。
折り返してかけると、1コールで繋がった。

『あおいちゃん!今どこ!中にいる?』
「真希さ……ゴホッ」
『あおーー』

ダメだ。咳き込んで会話にならないし、話そうとすればきっとどんどん苦しくなる。
諦めて電話を切った。

「ゴホッ」

これ、絶対まずい。
ああ、やっぱりエレベーターの件の時、ちゃんと厄祓いに行っておけばよかった。
最近の私は運が悪いにもほどがある。
今日は特に踏んだり蹴ったりだ。

ハンカチを口に当てながら辺りを見回した。
通りに面している窓は開かないようになっている。
反対側の引き違い窓を……
窓を開けに行こうとしてふと思い出した。

『火事の時は窓を開けちゃダメだぞ。酸素を取り込んでますます燃えるから』

そうだ。前に翔ちゃんが言っていた。
あとはなんだっけ。何を言われていたっけ。

『煙は上に昇るから、体勢を低めること』

サロンの隅に座り、身を屈める。
あとはどうすればいいんだっけ……もう思い浮かばない。

翔ちゃん……
涙がどんどん溢れ落ちていく。
スマホに震える指を滑らせた。

このまま死ぬのなら、最後に――……


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