オレンジ服のヒーローの一途な愛
彼が胡座を崩して立ち上がった。

「じゃあ、俺は帰る。あおいは今日仕事なんだろ?」
「うん」

私はエステティシャンの仕事をしているため、朝の出勤は10時からと少し遅めだ。

「翔ちゃん疲れてるでしょ。遠回りして寄ってくれたんだね」
「説教するためにな」
「うっ」
「まあ、体調は悪くなさそうだけど、今日はあんまり無理するなよ。精神的にもだいぶきつかっただろうから」

……なんだかんだ心配して様子を見にきてくれたってことじゃない。
思わず頰を緩ませると、目ざとい翔ちゃんがじとっと睨んだ。

「何笑ってるんだよ」
「いたっ」

デコピンがとんできて、言うほど痛くはないけど反射で声が出た。

「世話のかかる妹を持つと、大樹も俺も大変なんだからな」
「……ごめんね」

『妹』という言葉に少し切なくなりながら、短く返した。
玄関を出ようとした翔ちゃんが、ピタッと足を止める。

「翔ちゃん?」

振り返った翔ちゃんは、なぜだか真剣な顔をしている。
また何か怒られる……?
おどおどしていると、飛んできたのは全く予想外の言葉だった。

「明日は仕事休みなんだよな?」
「え、うん」
「俺明日週休だから、ちょっと付き合って」
「えっ!?」
「大樹への口止め料」
「う、うんっ」

翔ちゃんはふっと口元を微笑ませ、「また連絡する」と言ってドアを出て行った。
付き合ってって、どこにだろう。
兄抜きでふたりで出かけるのなんて久しぶりだ。
昨日のことがチャラになるくらい、心がふわふわと嬉しくなる。
お祓いなんて、やっぱり行く必要はないかもしれない。


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