オレンジ服のヒーローの一途な愛
「ただいまあ」
「あ、おかえり」

玄関から疲れ切った声が聞こえ、兄がネクタイを緩めながらリビングに入って来た。
時計を見ればもう23時半だ。

「今日も遅かったね」
「うん、もう少しすれば落ち着くと思うんだけどさあ」

言いながら、兄はふあーっとあくびをしている。
システムエンジニアをしている兄は、多忙で夜中まで帰ってこないことも多々ある。
最近は繁忙期のようで、特に帰りが遅い。
そんな兄の心労を、私の救急搬送なんかで増やすわけにはいかなかったのだ。

「ご飯は食べたの?」
「仕事しながら軽く食べてきた。何かおかずある?」
「回鍋肉の残りと、ポテトサラダと、ご飯のタッパーを冷蔵庫に入れてあるよ」
「じゃあ小腹も空いたし、あとでもらうよ。ありがとう。あおいはいい子だなあ」
「ちょっ……やめてよお兄ちゃん」

兄が私を抱きしめて頭を撫で回す。
長い髪はぐしゃぐしゃでオバケみたいになってしまい、口を尖らせながら手櫛で整えた。
私はもう22の大人だというのに、兄はいつまでもこの調子だ。
兄はいわゆるシスコンで、学生の頃から友人たちがドン引きするようなエピソードは数知れない。
私が就職のため実家を出る時だって、『ひとり暮らしは危ないから絶対認めない!俺が一緒に住む!』と譲らなかったくらいだ。

< 8 / 45 >

この作品をシェア

pagetop