きっかけ【短編】
 もうあれだけ時間が経っているのに


 それでもどきどきするなんてどうかしている。



 でも、無視するのも下手に意識しているみたいで嫌だった。

「何よ」

 ぶっきらぼうに言って振り返る。

 思ったよりも至近距離に彼の顔があった。

 やばい。

 そう思ったけど既に遅い。

 めちゃくちゃ意識をしてしまった後だったから……。

 長い睫毛に、すごく澄んだ瞳。

 全然昔と変わらないどころか、すごくかっこよくなった。

「一緒に帰らない?」

 嫌と即答したいのに言葉が出てこない。

「あたしは朝子と帰るから」

 やっとそう告げた。

 絶対顔が赤くなっている。

 何で今でも意識しちゃうんだろう。
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