きっかけ【短編】
「ごめん。あたしは今日用事ができたから巧と帰ったら?」

 はい?


 なんかあっさりと言われてしまった台詞。

 あたしは朝子を見た。

 彼女は笑顔を浮かべている。

「今日、用事ができてしまって」

 用事ができたのを何でこんなタイミングで言うんだろう。

 なんかやけに怪しい。

「じゃ、帰り迎えに来るから」


 巧はそう言うと軽い口調で去っていく。

 遠ざかっていく彼の姿を見ながら、視界の隅に映った彼女を見る。

「朝子」

「ごめんって。でも、このままだとちょっと後味が悪いでしょう? 
仲直りだと思えばいいじゃない」

 仲直り、ね。

 しかし、経緯を知らない彼女だからそんなことが言えるわけで。


 でも、経緯を話す気にはさすがにならない。


「分かったわよ」


 もう話しかけないでときっぱり言おうと決めた。
< 7 / 22 >

この作品をシェア

pagetop