恋神様に願いを込めて
「…俺が初めて中庭に来た日、紬ちゃんと会った日。あの日は、人に囲まれることに少し疲れて一人になりたくて、探していた時に目についたのがここだった。ちょうど誰もいなかったベンチに寝転がっていたら、スマホでドラマを見ながら突然叫んだ女の子、紬ちゃんと出会ったんだよ」



あの日はロイ様の胸キュンシーンが炸裂で、我慢の限界だった私は誰もいないとばかり思っていたから思わず叫んだんだ。


そしたら突然ベンチから誰かが起き上がって、その時はお化けかと思って驚きもう一度悲鳴を上げた。



それが、学校一人気者の相馬充希だとも知らずに。



「推しの話を生き生きと話す紬ちゃんを見ているのが楽しくて、毎日ここに来るようになった。最初は放課後だけだったのが、昼休みも中休みもここに来るようになった。一人になりたくて来た場所だったのに、今じゃ紬ちゃんがいないと何も楽しくないし来る意味がない」



先輩と過ごせる放課後の時間がいつしか大切になっていた。


向かう足が自然と駆け足になって、中庭で先輩がいつも通りベンチに寝転がっているのを見て嬉しくなった。



放課後の先輩は私だけの先輩だから。私だけを見て笑ってくれる先輩が、ずっと前から好きだった。



「推しのことが大好きなところも、花に水をあげる優しい横顔も、俺の前だとよく笑ってくれるところも全部好きだよ」


「…え?」


「俺が一番優しくしたいと思うのも、するのも、付き合いたいと思うたった一人の女の子も、全部紬ちゃんだけだよ。俺を推しじゃなくて、彼氏にしてください」


「…ええ!?」



先輩に気持ちを伝えられればいいと、そう思っていた。


気持ちに応えてもらえるなんて思っていなかったし、まさか先輩が私のこと好きだなんてことはないとわかっていた。


…はずだったのに。
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