恋神様に願いを込めて
頬杖をついて窓の外を眺めていると、まだいたらしい五十嵐が前の席に座ってきて言った。



「だって結芽花ちゃんも、充希先輩のこと好きなんだよね?」


「は?…ああ」



そういえば一週間前に五十嵐が唐突に恋バナを振ってきて、私の気持ちをバラすわけにもいかなかったから適当に充希先輩が好きだと嘘をついたことを思い出す。


この前も五十嵐に差し入れを持って行ったけど素直になれずに、ちょうど練習に参加していた充希先輩に渡したところを見られて、すっかり信じ込んでいるようだった。



「えっと私は…充希先輩が幸せならそれでいいし、別に…」


「ふぅん。まあ、失恋には新しい恋って言うじゃん?試しに俺と付き合ってみる?」


「はあ!?誰があんたなんかと…!色んな女の子と連絡取り合って遊んでるようなあんたとなんて、死んでも付き合わないから!」


「…冗談だよ」



思わずムキになって返してしまい、ハッと我に返る。


本当はこんなこと言いたいわけじゃないのに…。



「え、結芽花ちゃん?どこ行くの?朝礼始まるよ!」



五十嵐の呼びかけを無視して教室を飛び出す。



とにかく何も考えずに走っていたら、なぜか旧校舎の方まで来てしまっていた。


喧騒とかけ離れた旧校舎は、ここだけ世界が切り取られたかのような静けさだった。
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