恋神様に願いを込めて
五十嵐が起きたのは外がすっかり暗くなった三時間後だった。



「…え?え!?なんで結芽花ちゃんが俺の部屋に…」



単語帳を黙々と読んでいると、驚いたように五十嵐がベッドから起き上がった。



「なんでって…覚えてないの?先生にプリント頼まれたから届けにきたの。それであんたが玄関で倒れたからここまで運んだ」


「ええ…あれ、夢かと思ってた…」


「これゼリーとか適当に買ってきたから後で食べて。あと冷えピタもあるから使うなら使って。てか、あんた一人暮らしなの?勝手に冷蔵庫開けちゃったけど、物なさすぎ。なんでもいいから食べないと、また倒れるよ」


「うう…何これ、結芽花ちゃん俺の嫁…?」


「はあ!?馬鹿なこと言わないでよ。私もう帰る」



見た感じさっきよりは熱が下がったみたいでホッとし、鞄を持って立ち上がる。



「あ、待って待って。そこまで送るよ」


「いい。…それに、熱、昨日の雨のせいじゃないの?ちゃんとあんたが傘差さないから。…私なんかのために馬鹿みたい」



違う。本当はありがとう、ごめんねって言いたいのに…。


どうしていつも私はこうなんだろう。



「違うよ、結芽花ちゃんのせいじゃない。元から熱っぽかったのが悪化しちゃっただけ。それに、結芽花ちゃんが濡れてないならそれで俺はいいんだよ。結芽花ちゃんは?風邪とか引いてない?」



昨日の保健室行っていたのも、本当に体調が悪かっただけだったんだ…。



「…引いてないけど…」


「ならよかった。…俺さ、あんまり両親と仲良くなくて一人暮らししてるんだ。だから誰も看病してくれる人いなくて心細かったから、今日結芽花ちゃんが起きるまでここにいてくれて嬉しかったよ。ありがとね」
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