恋神様に願いを込めて
五十嵐がいつか誰か一人だけを大切にする時が来るかもしれない。


それはあの歓声を上げている女子達の中にいるかもしれないし、目の前のレンかもしれない。



私じゃない人の名前を、優しく呼ぶの…?



「…だめ!」



気づいたらそう大声を上げていて、ハッと口を押さえる。


女子達からの視線に耐えられなくなり、レンの腕を引っ張って人気の少ない水道まで行く。



「あの、さっきのは咄嗟に言っちゃったっていうか、別に私はもう五十嵐のこと好きじゃないし…」



レンは突然肩を振るわせたかと思うと、大声で笑い出した。



「あはは!面白いわね、結芽花」


「面白い…!?意味がわからない…」


「正直に自分の気持ち、言えるじゃない」



レンの言葉にハッとする。


…たしかにさっきは頭より先に口が動いていた。


だから思わず、思っていたことをそのまま言ってしまって…。



そこで私はやっと気づく。


私は五十嵐を取られたくないんだ。全然好きなことをやめられていない。
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