恋神様に願いを込めて
「あのね結芽花。いいことを教えてあげるわ」


「…いいこと?」


「どうしても素直になれない時は、少し深呼吸をするの。衝動的に言葉を吐くんじゃなくて、本当に言いたいことはなんなのかちゃんと考えてから言葉にする。それだけであなたは変われるわ」



レンが優しく微笑むと同時に強い風が顔面に吹きつけてきて、思わず目を閉じる。



「…結芽花ちゃん?」



目を開けた時にはなぜかレンの姿はなく、かわりに五十嵐がいた。



「な、なんであんたがここにいるの…!」


「結芽花ちゃんこそ、こんなところに一人で何してるの?さっきグラウンド来てくれてたよね?大声出してどっか行っちゃったから気になって追いかけてきたんだよ」


「な…っ、練習中なんじゃないの!私なんかのためにわざわざ追いかけてこなくていいし、早く戻りなよ!」


「結芽花ちゃんだから追いかけてきたんだよ。何かあったんじゃないかって心配で」


「そんなこと頼んでない。私じゃなくたってどうせ誰にでもやってるんでしょ!だから…」



––––– 「どうしても素直になれない時は、少し深呼吸をするの」



レンの言葉を思い出し、飛び出そうだった余計な言葉をぐっと飲み込む。


…違う。まただ。私はこんなことを言いたいんじゃない。



小さく深呼吸をしてから、真っ直ぐ五十嵐を見上げる。
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