恋神様に願いを込めて
それも全部、みんなが思っているだけの空想の話。


実際は私に婚約者なんていないし、彼氏すらいない。


それに…。



「恋愛したことないなんてみんなに知られたら、どうなるのかしら…」


「へぇ、永野先輩って本当は恋愛したことないんですか?」



ばっと振り向くとそこにいたのは、サラサラな黒髪に黒縁メガネをかけたいかにも真面目そうな男子生徒、佐野くんだった。


それにしても、今聞かれて…。



「…なんのことかしら?」


「あはは、今更とぼけたってもう遅いと思いますけど」



佐野くんはスタスタと中に入ってくると、山積みにされたプリントを半分手に取った。



「あ、あの、今の話は聞かなかったことにしてくれないかしら…?私が恋愛もしたことのないような人だって知られたら、みんなからなんて言われるか…」


「別に誰かに言うつもりなんてないですよ。永野先輩の噂は色々と耳にしていたので驚いただけです。まさか先輩が、初恋もまだなうぶな女性だったなんて」


「か、からかってるの!?」



佐野くんが目を細めてあははと笑った。


その無邪気な笑顔がなんだか思っていた佐野くんとは違って、思わずまじまじと見つめてしまう。
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