恋神様に願いを込めて
少しでも長く、佐野くんとの思い出が詰まったこの場所にいたかった。



「桜」


「え?」


「冬休みが終わって春になったら、この木いっぱいに咲く桜を一緒に見たいですよね」



佐野くんが桜の木をそっと撫でながら言った。



「…そうね。見たいわ」



また、嘘をついてしまった。


…ううん、これは願望。春になってもこの世にいて、佐野くんと一緒に桜を見たい。



生きたい…。



「先輩」



呼ばれて隣を向くと、佐野くんが真剣な表情で私を真っ直ぐ見ていた。



「先輩のことが好きです。強いところとか一生懸命なところとか、全部好きです。僕と、付き合ってもらえませんか?」


「え…私…?」


「はい。僕はずっと、先輩が好きでした」


「…私、は…」





誰もいなくなった桜の木の下で、一人膝に顔を埋めてうずくまる。
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