アマノカワ
第三章 命より燃えるもの
そのときの俺は、案外冷静で物事もゆっくりとみえていた。
割れた窓ガラスにいくつか傷をつけられ、地面へと降りる。
美しい剣を携えながら。
川の方へと走る俺をみて、母はほとんど泣いたような状態で必死に引き止めていたが、ゆっくりとふり解きどんどんと加速しながら走り去った。
みると、そこにあるはずの川は一面綺麗な氷になっていて、うっとりとみ惚れてしまう程だった。
ただそのまわりは恐ろしい程の惨状で、飛び散る四肢と血肉と、燃え上がる炎が氷にそれを映し出していた。
どうやら奇襲をしかけたのは俺の住む町、天野町の方だったらしい。
前線をみると明らかにこちらの方が押している。
別に俺は戦にもぐりこみたいわけでは無い。
近くに君がいなければいいんだ。そうすれば俺もただ逃げるだけでいい。
そうなることを願いながら川の手前までくると、また雪が降り出して、木造の家に燃え移った炎に灰のように消されていった。
その瞬間胃が収縮して、俺は身体全体を強ばらせた。