アマノカワ

「なんで…」

 目の前には明らかに俺を目掛けて走ってくる君がいた。

しかも何故か俺の名前を呼びながら。

「ひびきぃぃぃーーー!」

 そう叫ばれた俺の名前は文字通りに戦場に響き渡って、疑問と焦りを走らせるしか無かった。

「早く逃げろドあほ!!」

 初対面の人に何故こんな言葉を放てたのか分からない。

知らないうちに自然と出てきてしまった。でももっと分からなかったのは、君はそれを聞くなり優しく微笑して、まだこちらに向かって来ようとすることだ。

 (なんなんだよこいつ…)

 もう本当に訳が分からず、ただひたすらに俺もそちらへと足を運ぶ。

 でも、人間の足だ。

そう速くは走れない。

君の場所に手が届いたのは、危ないと思って、事が起きた後だった。

 俺はその場所に一番にたどりつくことができなくて、変わりに一番にたどり着いた奴は、走る君の横腹に包丁を突き刺した。

倉庫に大量にあった、ステンレス製の包丁だ。
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