アマノカワ
「愛してる。」
それを聞いた瞬間、楓は全てが報われたように、噛み締めるように笑んだ。
「私は父と母を殺した。だからきっと私が刺されたのは仕方の無いことなんだよ。だから、もし私が死んでも、響はずっと笑っていて。それと響だけは私のことを忘れないでいてほしいなぁ。」
諦観したようなそれは、とても自分と同い年の人だとは思えなかった。
俺たちの事情も知らずに、北極星は今も変わらずまたたいている。
「忘れるわけない。まだ死なない。俺が助けるから、これからはずっと愛するから、だから死ぬなんて言わないでくれよ。」
ただの懇願に楓はまた微笑んで、優しく抱きしめていた腕を強くする。
「私だって死ぬのは怖いよ。死にたくないよ。せっかく愛をみつけたのに。」
それまで強がっていた顔はもうぐしゃぐしゃに潰れて、細かく震えていた。
あの時抱きしめてくれた楓となに一つ変わらない様子で。
「もし、もし次逢える時が来たら、また川は凍っていてくれるかな。」
諦念の色を孕んでそう言うから、思わず全力で言い返して、
「川なんて凍ってなくていい、また暖かい日に星を見に行こう!天の河を渡ろう」
励ますような、命をつなぎとめるようなそんな声色だった。
また、泣きながら優しく楓は笑う。そのときの目は、もう細く細く笑いすぎだと言うほどに。
「ありがとう…大好きだよ。」
それから、次の言葉が継がれることは無かった。
俺はもう泣き叫ぶ気力もすがる希望もなくて、楓に抱きついたまま、背中には刻々と雪が積もっていくばかりだった。