アマノカワ
――ちゅんちゅん。
小鳥がさえずりを奏でている。
「そういえばさ、川野町のとこの娘さん亡くなったらしいよ。」
「そうか」
春翔の語りかけに淡白に応じて、小さく盛られた土に一輪の赤いアネモネを供える。手を合わせ、目を瞑る。
戦死者が一斉に燃やされたあの時の光景が目に浮かんで、また泣き出してしまう。
その燃え上がる火は、まるで命の儚さをそのまま物語っているかのようだった。
静かに吹き続ける風は、春の訪れをはっきりと告げる。
散っていく桜に春翔が声を上げた。
「わぁ、きれいだな。」
「そうだな」
しばらく沈黙が続く。
春翔が何とか励ましてくれようとしているのはわかるのだけれど、どうしても今はそんな気持ちにはなれなかった。
(誰がこんな状況で笑っていろだ。)
楓にそんな八つ当たりの気持ちをぶつけて、最後にこうも付け足す。
(大好きだよ)
あの時、楓が生きているうちに返せなかった言葉だ。
無理にでも少しだけ口角を上げ、
「また来るよ。」
「お、久しぶりに響が笑った。」
そんなことを言いながら春翔が変顔をするので、笑ってしまった。
二人で転げ泣くまで。