アマノカワ
しかし、滑って転ばないようにゆっくり歩いてはいたつもりだったのだけれど、気持ちのたかぶりが先走って転んでしまった。
大して怪我もなさそうだったので、すぐさま立ち上がろうとすると、どこからか声をかけられた。
すっと透き通る秋風のような声だった。
見上げると、そこには隣町の子だろう。同年代くらいの女の子がこちらに目を向けていた。
「大丈夫?君、天野町の子でしょ?渡ってきたら怒られちゃうよ?もしかしたら殺されちゃうかも…」
そう心配そうに、でもちょっぴりおどけるように彼女は言った。
俺はたしかに、その時に討たれたのかもしれない。
とても小さく、しかし、大きな矢で。
だって、だって、君がとても優しい目を向けてくれたから。
とても暖かい目をしていたから。
ずっと、人の目を見ることが怖かった。誰もが自分に冷たい目を向けているようで、怖かった。
だからこそずっと忘れられなくて、思い出すんだ。はっと吹き上がる春風のような、名前も知らない君のことを。
「おい、響どうしたんだよ、俺と一緒にされるの、そんなに嫌だったか…?もしかして卒業式とかで感動するタイプだったか…?」
あまりにも心配そうに春翔が聞いてくるので何が?と疑問符を打とうとすると、声は上擦り、口の中ではしょっぱさで、口内炎の痛みがヒリヒリと音を鳴らしていた。