アマノカワ

 それに驚いた何匹かのカラスが、ばさばさと飛び立つ。

「お前こんなとこで何してんだよ!」

 そう、笑いながら春翔が聞いてくるので、こちらもこれに微笑み返して、

「最期に好きな人を拝みに」

「どういう意味だよ!死んだら承知しねえからな。俺、響いなくなったらぼっちになるし。」

「かわいそ。」

「黙れぇぇぇ!」

 二つの笑い声が天高くに響き渡る。
 そうすると突然、

「あ、そういえば、」

 と春翔が何かを思い出した様子で、何を言い出すかと思えば、

「川野町の市長の娘さん、俺らと同い年でめちゃくちゃかわいいんだぜ!!今度見つけたらナンパしよ。」

 と、ものすごく楽しそうに伝えてきた。
 川野町とはあの隣町のことだ。

「きもすぎだろ。その性格何とかすれば振り向いてもらえるかもな。多分無理だが。」

 挑発混じりにドヤ顔で言い決める。

「はぁ?じゃあ先に好きな人と付き合えた方が勝ちな。」

「恋愛ってそういうもんじゃねーから!」

 盛大なツッコミと共に、心のざわつきはどこかに吹き飛んでしまった気がした。

 なんやかんやそのあとも少し春翔と話を続け、春翔と別れたのはもう正午をすぎた頃だった。
「そういえば、春翔は何しに外に出てたんだろう。」

 そうつぶやきながら空を見上げてみると、そこには大きな大きな雲が空一面に広がっていた。

 何となくそこにとどまっていたくて、ただぼんやりと考えているとお腹が声を上げたので、やはり家に帰ることにした。

 目の少し先では、生ぬるい風が木の葉を鳴らしている。

 帰り道に少しだけあの子に会えることを期待して、できるだけ川沿いを歩いてみたけれど、期待は膨らんだままでしぼんでしまった。
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