お前の全てを奪いたい【完】
 ただ、環奈の連絡先を知らない俺はそれ以上の事を知る術がない。

 明石さんに聞けば分かるけど、そこまではしない。

 人間誰でも探られたくない事はある。

 だから、裏でこそこそ探ったりはしたく無かった。


 それから三、四日程経ったが俺はHEAVENに行けないでいた。

 こういう時に限ってアフターの誘いがひっきりなしだ。

 いつまでも蔑ろにしてると客も怒って俺を指名しなくなると、それはそれでマズイ。

 勿論、俺的にはそんな事はどうでもいいけど、店の売上的に客は逃せないから仕方ない。

 だから、連日常連からのアフターの誘いを受けていた俺は、環奈の様子を見に行く事が出来なかった。

 明石さんの話によると、あれから二日後には出勤して来たらしいけど、キャストたちが話していた通り、顔は殴られたように少し腫れていたらしい。

 本人はそれを否定していたとも聞いたが、流石にそれは苦しい言い訳だと思った。


「ねぇ芹?」
「ん?」
「もう、話聞いてた?」
「あ、悪ぃ……ちょっと考え事してた」
「もう! 芹ってば酷い!」
「悪かったって」

 真美からのアフターの誘いを受けた俺は食事をした後、真美の要望で高級ホテルの一室に来ていた。

 シャワーを浴びた真美が戻ってくるなり、頬を膨らませて拗ね始める。

(ったく、鬱陶しいな……こっちはそれどころじゃねぇっつーのに……)

 そんな事を思うなんて、我ながらクズだと思う。

 けど、好きでもない女とホテルに来て、更には機嫌を取らなくてはいけないのだからウンザリするのも仕方ないと思う。

(さっさと済ませて帰りてぇ……)

 そう思った俺は真美の機嫌をとる為、腕を引いて抱き寄せ、強引に唇を奪ってやる。

「……んん!」
「……悪かったよ、真美……機嫌、直せよ…………な?」
「……はぁッ……、せり…………、もっと、……して?」

 こうなればこっちのモン。

 何度か口付けを交わした後、彼女の身体をベッドに押し倒した俺は欲望のままに真美を抱いた。

 目の前で乱れる真美の姿を見ながら、俺はふと思った。

 環奈だったら、どんな風に乱れて俺を求めてくれるのかと。

 女を抱きながらそんな事を考えるなんて初めての事で、いつもはただ金の為の行為だったのに、この日はいつになく感情が昂り、愉しんでいる自分がいた。
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