お前の全てを奪いたい【完】
「俺をすぐに環奈が着いてる席の側へ案内して欲しい。それと指名するから俺に環奈を付けてくれ」
「おいおい、一体どうしたっていうんだ? この前からやけに環奈を気にするじゃねぇか」
「アイツ、危機感無さ過ぎで放っておけねぇんだよ。頼むよ、明石さん」
「…………はあ、分かったよ。すぐ席を用意させる」

 こうして俺が明石さんに頼み込んで環奈が接客をしてるすぐ横の席に通されて座ると、やはりあの時話していたクズな男が環奈のすぐ横を陣取っていた。

(やっぱり、アイツの女なのかよ……)

 一体あんなクズのどこが良くて付き合っているのか分からねぇ俺は終始イラついていた。

 そんな中、ボーイが環奈に耳打ちをすると彼女が俺の方に視線を向けてきた。

 どうやら指名が入った事が伝えられたようだ。

 環奈は彼氏と思しき男に何かを伝えると席を立って、俺の席にやって来た。

「芹さん、どうしたんですか?」

 そう尋ねる環奈に俺は、

「お前に会いに来た。カナ、来いよ」

 驚く彼女の腕を掴み強引に引き寄せて隣に座らせた俺は、環奈の肩を抱いた。

 あのクズ男に見せつけるように。

 アイツは一瞬俺らの方に視線を向けるとムッとした表情を浮かべたものの、すぐに逸らしてヘルプで入ったキャストの女を口説き始めた。

 一応、意識はしているようだが、こんなモンはまだ序の口だ。

「せ、芹……さん?」

 彼氏が見ている事を気にしているのか、俺の腕から逃れようとする環奈の耳元に口を近付け、

「俺を見ろよ。今、お前は俺のモノだろ? よそ見なんてしてんじゃねぇよ」

 吐息混じりにそう囁くと、

「……っ」

 それが(くすぐ)ったかったのか、環奈の身体がピクリと反応した。

 たったそれだけで、俺の身体は熱を帯び、感情が高まっていく。

 そんな俺の行動に周りは勿論、環奈の男もこちらを注視する。

 自分の女を取られて苛立っているのがよく分かる。

(ざまあみろ)

 そう嘲笑うように男を見てやると、俺の挑発に気付いたらしいソイツは突然席を立ち「会計!」と叫ぶように言い放つ。

 その声に慌ててボーイがやって来ると、苛立ちながら金を支払い、連れの男が慌てている中、一人早々に店を出て行った。
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