お前の全てを奪いたい【完】
 比較的近い場所にホテルがあった事もあり、十分程で辿り着く。

 環奈が居たホテルは所謂ラブホテル。

 ここは料金を支払わなくてもロックが掛かっていないから一人は出れる。けど、二人目も料金未払いで出ようとするとフロントで止められる仕組みになっている。

 環奈に部屋の番号を聞いた俺はそのまま向かいドアをノックすると、

「……万里……さん……っ」

 不安で仕方なかったんだろう。俺の姿を見るなり涙を溢れさせながら環奈は抱き着いてきた。

「……っ」
「環奈、もう平気だから落ち着け」
「うっ……ひっく……」

 俺の知る限り、新人キャバ嬢だとこういう事案も決して少なくは無い。

 食事をした後の記憶が無かったという環奈の話から、恐らくどこかで薬を盛られたんだろう。

 そうして意識を奪い、そのままホテルに連れ込んで無理矢理犯す。そんな事案が過去にもあった。

 アフターはリスクが大きいから、新人は特に気をつけなければいけないんだ。

 シャワーを浴びたらしい環奈の肌は、ところどころ赤くなっている。

 環奈は恐らく意識が混濁したままの状態で襲われてるだろうから、彼女はそれを消す為に、何度も何度も身体を擦り、洗ったんだと思う。

 そんな痛々しい姿を見た俺は、すぐにでも上書きしてやりたい気持ちで一杯だった。

 けど、それは彼氏でもない俺のすることでは無い。

 だから、今の俺には彼女の身体を強く抱き締めてやる事しか出来なかった。

「もう大丈夫だから、俺が……側に居るから」
「……ば……んり……さん……っ」

 身体を震わせて泣きじゃくる環奈を落ち着かせようと思って優しい言葉を掛けたけど、それはかえって彼女を余計に泣かせる事になってしまったようで、暫く環奈は声を上げて泣き続けていた。


 この一件は俺の方で明石さんに報告したけど、環奈に薬を飲ませてホテルに連れ込んだ男は新規の客だったようで、特定するのは難しかった。

 環奈は数日休んだ後仕事に復帰したようだけど、暫くは恐怖心から思うように接客も出来なくなったという事を聞いた俺は、少しでも助けになればと仕事終わり、連日のようにHEAVENに通い環奈を指名し続けた。

 そんな日々が続いたある日、思わぬ形で環奈を襲ったであろう犯人を特定する事となる。
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