お前の全てを奪いたい【完】
「なぁ環奈、いい加減……目を覚ませよ?」
「……で、でも……もしかしたら、何か……理由があるのかも……だから……」
「仮にそうだとしても! どんな理由があったって普通は……彼女を他の男に金で売ったりしねぇよ。俺だったら、他の男に触れさせたくねぇって思う」
「…………でも……私……」

 こんなやり取りしか出来ない事が、酷くもどかしい。

 環奈がここまでクズ野郎に依存するのは何なんだ?

 俺にはその理由が分からない。

 本当なら、無理矢理にでも男と別れさせて、俺のモノにしたい。

 それくらい俺は、環奈の事が好きで大切なのに、環奈にはそれが1ミリも届かない。その事実が、だんだん虚しくなる。

 そして、こんな状況の中、環奈のスマホに男から電話が掛かってきた。

「……すみません、ちょっと……」

 気まずそうに一言断った環奈は事務所から裏口へ出て行き電話に出た。

「クソっ!」

 苛立ちが抑えきれなくなった俺が立ち上がると、明石さんが戻ってくる。

「何だ? 万里、荒れてんな。と、環奈はどうした?」
「……男から電話かかってきて、出てる」
「例の彼氏か?」
「ああ」
「環奈はこんな目に遭っても彼氏を信じるつもりなのか?」
「みてぇだな」
「…………万里、怒る気持ちは分かるが、顔に出すぎだぞ。もう少し抑えろ」
「……分かってるよ……」

 正直、自分でも子供(ガキ)みてぇだって思う。

 こんなに感情をコントロール出来ないなんて、大人になってからは久しぶりで、俺はそれ程までに環奈の事が好きなんだと改めて自覚する。

「俺、やっぱこのままとか無理だわ」
「あ、おい、万里――」

 環奈が幸せなら、それでもいいと思った。

 だけど、やっぱり納得出来ない自分がいる。

 あんなクズ野郎の彼女にしておくなんて出来ない。

 だから、俺は決めた。

 環奈を――あの男から奪ってやると。
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